ツキノワグマの危険性はどのくらい?闘ったら勝てる?遭遇したときの対処法とは
ツキノワグマは、日本における最大級の哺乳類です。
恐ろしい印象を持っている方も多いかもしれませんが、獰猛な動物ではありません。
食事の大部分が植物で、木の実や草木の芽などを主に食べています。
警戒心が強く、人間を見つけても、襲ってくるよりも、逃げていく可能性が高いです。
しかし、突発的に人間と遭遇した場合などには、驚いて攻撃される危険性があります。
もし、攻撃された場合には、大けがや死亡につながる可能性があり、大変危険です。
そこでこの記事では、ツキノワグマの危険性や、危険にあった時の対処法、危険を防ぐための対策などを紹介します。
この記事を執筆した専門家
生物系大学院卒業後、自然環境系の建設コンサルタントに従事。
地理情報、自然環境や生物の生態等を専門とするほか、環境アセスメント図書作成の経験も有する生物環境分野の専門家。
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ツキノワグマの基本情報
ツキノワグマは大型の哺乳類です。
日本には2種類のクマが生息していますが、本州以南に生息しているのがツキノワグマです。
全身黒色ですが、胸のあたりにV字状の白い斑紋が入り、これが三日月のように見えるため「ツキノワグマ」という種名が付きました。
日本に生息する個体は、体長1.0~1.5m程度、体重は40~120kg程度で、クマとしては比較的小型の種類です。
ただし、体長のばらつきが大きく、最大で200kgを超える個体が捕獲された記録もあるようです。
大きな体ですが、高い運動能力を持っています。
時速50km程度で走行することができ、柔軟性があり狭い範囲でも機敏にくぐることができます。
さらに、泳ぎもうまいようです。
クマというと、他の動物を襲って食べているような印象を持っている方も多いかもしれませんが、ツキノワグマは、植物食傾向が強い雑食性です。
食物の9割以上が植物という報告があり、野生環境下では、ドングリなどの木の実、果実、木などの芽などを主に食べているようです。
肉食をする場合でも、積極的に他の哺乳類を捕まえるのではなく、昆虫類、魚類、動物の死骸などを食べることが多いようです。
しかし、大型の哺乳類を捕食した記録もあり、決して小型の生物しか捕食しないというわけでもありません。
遭遇する地域や環境
ツキノワグマは、日本を含むアジア地域に広く生息しています。
日本国内では、本州及び四国が生息地域です。
主な生息環境は、森林、その中でも特に落葉広葉樹林を好みます。
落葉広葉樹林とは、冬場に葉っぱが落ちる木で主に構成される樹林です。
自然の森林は、落葉広葉樹林であることが多いです。
落葉広葉樹林以外の樹林としては、例えば、スギ林などがあります。
このように、主な生息環境は森林ですが、餌が少ない年には食料を求めて行動範囲が広がることがあります。
その場合、本来の生息地を離れて、人が住んでいる地域で目撃されることがあります。
また、近年では、人間の生活圏近くに分布が拡大しているとの調査結果もあります。
遭遇する時期や時間帯
ツキノワグマの主な活動時間帯は日の出前や日没後です。
ただし、これ以外の時間でも、悪天候で薄暗い場合には日中に活動したり、餌が多くとれる時期には、昼間や夜間に活動し餌をとりに行くこともあるようです。
ちなみに、調査によると睡眠は夜間に取っているようです。
また、ツキノワグマは、冬眠をする習性があります。
冬眠するクマは、秋の間に餌をたくさん食べて、その栄養で冬を越します。
そのため、秋季以降活動時間が減少し、冬季はほとんど行動することはありません。
そして、春季になり冬眠から覚めると、活動時間が増加します。
なお、冬眠する時期は、地域や年によって変動しますが、おおよそ12月から翌4月の間です。
このように、ツキノワグマが野生環境下で生息している地域では、春から秋の間の深夜以外の時間帯に遭遇する可能性があります。
特に、日の出や日没前後の時間帯に活発に行動します。
ツキノワグマの危険性
ツキノワグマの危険性は「噛まれること」や「引っかかれること」です。
基本的に気性は落ち着いており、どちらかというと臆病な性格です。
積極的に攻撃を仕掛けてくるような動物ではありません。
しかし、不意に人と鉢合わせするなどして、驚いたり興奮した場合には攻撃してくる場合があります。
また、自分の餌を奪われるのを防ぐため、餌場にいる人間を攻撃することもあるようです。
一旦、攻撃状態になると、大きな力で噛みついたり、引っかいてくるため、大けがをしたり、場合によっては命を失う可能性もあります。
実際に、ツキノワグマによる死亡事故は毎年のように発生しています。
近年では、2016年には秋田県で山林内で約1か月の間に連続して複数の人が、ツキノワグマに襲われ、計4人が死亡する事故が起こっています。
この事例では、タケノコ採りの目的で山に入った人が連続して、被害にあいました。
ツキノワグマが好む餌がある場所には、多くの個体が集中します。
さらに、餌がある限りその場に居続けるそうです。
その結果、多数のツキノワグマが餌場としている場所に、その餌を採集する人間が入った結果、攻撃されてしまったと考えられています。
すでに説明した通り、ツキノワグマは大型の動物を襲って捕食する性質は強くありません。
しかし、この2016年の事故では、死亡した方たちは捕食されており、損傷がひどかったようです。
攻撃能力が高く肉食を行う動物であることを、認識しておくことが大切です。
遭遇したときの対処法
上で説明した通り、ツキノワグマの危険性は噛まれたり引っかかれることです。
体が大きく力も強いため、実際にそのような被害を受けた場合には、大けがをする可能性があります。
ただし、臆病な性格で、人を捕食目的で攻撃してくる可能性は低いです。
ツキノワグマが遠くから人を見つけたとしても、近づいてくるのではなく逃げていく場合が多いでしょう。
しかし、お互いに気づくことなく、偶然、人間と鉢合わせしてしまうこともあります。
そのような場合には、驚いて攻撃してくるケースが多いようです。
突然、ツキノワグマと鉢合わせすると、冷静さを失い、パニック状態になるかもしれません。
しかし、とにかく落ち着くことが大切です。
焦って大声を出したり走って逃げたりすると、クマを刺激してより危険になります。
ここでは、山の中でツキノワグマに遭遇してしまった場合に、安全に切り抜けるためにしてはいけないことや、しておくべきことを紹介します。
①背を向けずに後退する
ツキノワグマと20m程度以上離れている場合には、背を向けることなく後退しましょう。
遭遇しても、直ぐには直接的な攻撃をしてこないことが多いです。
そのような場合は、威嚇の目的で攻撃の姿勢を見せたり、こちらにゆっくり向かってきたりしますが、実際に攻撃することはありません。
ツキノワグマとの距離が離れている場合は、この方法で落ち着いて逃げることが有効です。
②クマ撃退スプレー
ゆっくり後退してもクマが離れず、逆に走って近づいてきた場合には、襲われる可能性が高まります。
クマは、森林内でも速く走れます。
人間が走って逃げても追いつかれる可能性が高いです。
クマが5m以内に近づいたら、熊スプレーを目や鼻をめがけて噴射しましょう。
③攻撃されたら身を守る
それでも、逃げることができず、攻撃をされてしまう場合は、勇気を振り絞り立ち向かうことが必要になります。
もし、倒れてしまい、攻撃をすることもできない場合は、うずくまり、首、顔や腹を両手で隠し、クマが離れていくことを待ちましょう。
ツキノワグマは体が大きく力も強いため、実際に攻撃を受けた場合には、大けがをしている可能性が高いです。
出血の状況によっては止血の措置をとり、急いで病院に向かいましょう。
遭遇を防ぐための対策
ツキノワグマの危険を防ぐための最も効果的な対策は「遭遇を避けること」です。
上で説明した通り、ツキノワグマに攻撃されるのは、偶然鉢合わせしてしまい、驚いたクマに攻撃される場合が多いです。
そのため、ツキノワグマの危険を防ぐためには、そのような突然の遭遇を防ぐ対策が有効です。
以下のような対策があります。
①声や音で知らせる
話しながら歩いたり、鈴などを持ち物に付けて、歩くたびに音が出るようにします。
登山用品店などには、「クマ鈴」というグッズが売っています。
それをバッグなどに付けておくと、歩くたびに音を鳴らすことができます。
他にも、ラジオをつけておくといった方法も効果的です。
②出会う確率が高い時間帯を避けて行動する
ツキノワグマが活発に行動している時間帯ほど、偶然出会う確率は高まります。
そのため、そのような時間帯、具体的には、日の出や日没前後の時間帯を避けることが有効です。
③見通しが悪いところに入らない
草木が密集している茂みの中を通ると、お互いに発見しづらくなり、突然鉢合わせする可能性が高まります。
どうしても茂みなどに入らなければならない場合には、音を立てる対策をしっかりと行いましょう。
また、山菜取りなどに夢中になると、音を立てるのを忘れてしまい、ツキノワグマに気付かれづらくなります。
ツキノワグマが生息している森林で、見通しの悪い場所に入るのは、必要最小限にしましょう。
④香りが強いものを身に付けない。
香水や整髪料に引き付けられる習性があります。
極力香りが強いものを身に付けないようにしましょう。
繰り返しになりますが、ツキノワグマは決して好戦的な生物ではありません。
人間がクマを驚かせたり、興奮させることが無ければ、クマの方から逃げていく可能性が高いです。
クマに攻撃される場合には、何かしらの理由で、人間がクマを威嚇してしまっている可能性が高いです。
ここで説明した対策を、落ち着いて実行することで、クマに遭遇する可能性を小さくすることができます。
まとめ
本記事では、ツキノワグマの生態や危険性などをまとめました。
まとめると以下のような内容を説明いたしました。
– 国内の哺乳類としては最大級の大きさを持つ
– 運動能力が高く、森林内でも機敏に行動することができる
– 力が強く、鋭い爪と大きな歯を持つため攻撃されると非常に危険
– 好戦的な性格ではないので、落ち着いて行動すると危険性を小さくできる
比較的小型のクマであり、性格も臆病だと言われています。
しかし、驚いたり興奮すると人間を攻撃する場合があります。
力は強く、鋭い牙や爪を持っており、実際に攻撃されると非常に危険です。
ツキノワグマに遭遇しないことが、危険性を減らすための最も有効な対策です。
万が一、ツキノワグマに攻撃された場合の対処法は「背を向けずに逃げること」です。
そして、一定以上近づかれた場合には、熊スプレーなどで攻撃しましょう。
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