ツキノワグマとヒグマの比較【専門家執筆】

※当記事には一部広告が含まれます。プライバシーポリシー

目次

ツキノワグマとヒグマはどこが違う?生態や危険性などを比較

日本には、ツキノワグマとヒグマという2種類のクマが生息しています。

どちらも大型の哺乳類で、攻撃されると命を落とす危険性がある動物です。
生態も似ていて、危険を防ぐための考え方も基本的に同じです。

しかし、異なる部分もあります。
攻撃されると大きな被害を受ける可能性がある危険な生物であるため、小さな認識の違いが最悪の結果につながることがあります。

そこでこの記事では、危険性や危険にあった時の対処法などについて、ツキノワグマとヒグマの違いがわかるように紹介します。

 

この記事を執筆した専門家

tk_tanaka【プロフェッショナル】

生物系大学院卒業後、自然環境系の建設コンサルタントに従事。
地理情報、自然環境や生物の生態等を専門とするほか、環境アセスメント図書作成の経験も有する生物環境分野の専門家。

→ この専門家に仕事を依頼する

 

あわせて読みたい

ツキノワグマの危険性について【専門家執筆】

ヒグマの危険性について【専門家執筆】

 

ツキノワグマとヒグマの基本情報

ツキノワグマ、ヒグマともに大型の陸生哺乳類で、似たような生態を持っています。
主な違いは「ヒグマの方が一回り以上大きいこと」と「ツキノワグマには胸のあたりに特徴的な模様があること」です。

具体的には、以下のような違いや似ているところがあります。

 

色・見た目

どちらもクマ科の動物であり、ぱっと見た感じは大きくは変わりません。
全体の色も黒系統や茶色の個体が一般的です。

見た目の大きな違いは、ツキノワグマには「胸のあたりにV字状の白い斑紋」が入ることです。
一方、ヒグマでは、目立つ模様はありません。

WWFジャパン
日本に生息する2種のクマ、ツキノワグマとヒグマについて 世界には8種類のクマがいます。日本国内には北海道に生息するヒグマと、本州以南に生息するツキノワグマの2種類のクマがいます。環境省の調査によると、北海道の約55%の地...

 

体格(大きさ)

どちらも大型の哺乳類ですが、大きさには差があります。
ツキノワグマが体長1.0~1.5m程度であるのに対して、ヒグマは体長2.0~2.3mとかなりの大きさです。

体重も、ツキノワグマは大きくても100kgを少し上回る程度であるのに対し、ヒグマは200kgを超えることもあり、500kgを超えるような個体が捕獲された記録もあります。

防災新聞
ヒグマとツキノワグマの違いを知っておこう!ヒグマは北海道のみに生息する | 防災新聞 日本にはヒグマとツキノワグマの2種類しか存在していません。今回は日本に生息する、ヒグマとツキノワグマの違いについて解説します。

 

運動能力

どちらも運動能力は高く、時速50~60km程度で走ることができるそうです。
さらに、泳ぎも得意です。

 

食性

どちらも植物食傾向が強い雑食性です。
ドングリなどの木の実、果実、木などの芽などを主に食べているようです。
肉食をする場合でも、積極的に他の哺乳類を捕まえるのではなく、昆虫類、魚類、動物の死骸などを食べることが多いようです。

しかし、味が気に入った場合などには、大型の哺乳類を捕獲し、食べることもあります。
特に、ヒグマには、味が気に入った種の動物に強い執着心を持ち、繰り返し捕食する傾向があります。
過去には、人間を捕食して味を覚えた結果、同じヒグマが繰り返し人間を襲い続けた事件も起こっています。

Number Web - ナンバー
札幌圏内でヒグマが人間を殺して腹部、臀部などを食べて…持っていれば生存確率が上がるものとは(伊藤秀倫... 遺体はうつぶせの状態で、腰から下が土で覆われ、頭部と上体部は裸出し、両手は胸の前に交差するように組まれていた。腹部、臀部、上下肢などを中心に食害された痕があった...
文春オンライン
出てきたのは女の髪の毛、赤子の両手…人喰いヒグマを解剖してわかった「衝撃の中身」 | 文春オンライン 人喰いヒグマを解剖することになった北海道の大学の研究グループ。胃袋の中から出てきたのは、人間の遺体の一部など恐ろしいものばかりだった……。そして、研究者たちが食...
+αオンライン | 講談社
なぜヒグマは人を襲うのか? 過去70年のヒグマ事件を掘り起こしたら、衝撃の事件だらけだった(中山 茂大... 昨年、令和3年は、未曾有のヒグマの暴れ年であった。この年のヒグマによる死傷者は12名(死者4名、負傷者6名)にのぼり、統計を取り始めた昭和37年以降で最多となったとい...

 

遭遇する地域や環境

ツキノワグマとヒグマの日本国内での生息地域は、完全に分かれています。
ツキノワグマは本州と四国に広く生息しているのに対し、ヒグマは北海道のみに生息しています。

生息環境は似ていて、主に森林に生息しています。
ただし、主な生息環境が森林であるだけで、それ以外の場所で活動する場合もあります。
特に、餌が少ない場合には、餌を求めて行動範囲が広がり人が住んでいる地域近くまで移動してくることがあります。

また、広大な行動圏の中に人間の生活圏が含まれている場合も多いです。
人間の生活圏がクマの行動圏に含まれている場合には、都市部であっても不意にクマに遭遇する可能性があります。

あわせて読みたい
tenki.jp
森の守護獣?危険な猛獣?もしもクマが山からいなくなったら…?(季節・暮らしの話題 2021年06月05日) - ten... 春の山菜取りから夏山登山・川遊び、秋の紅葉狩り・きのこ狩りと、例年であれば、人々が山でレジャーを楽しむ期間は、そのまま日本列島に自然分布する唯一の猛獣「クマ」の...

 

遭遇する時期や時間帯

ツキノワグマとヒグマの活動する時期や時間帯はほとんど同じです。

どちらの種も日中の明るい時間帯を避けて活動します。
つまり、日の出前や日没後に活発に活動します。
ただし、夜行性ではないので、場合によっては日中に活動することもあります。

また、どちらも冬眠をする習性を持っています。
冬眠するクマは、秋の間に餌をたくさん食べて、その栄養で冬を越します。
そのため、秋季以降活動時間が減少し、冬季はほとんど行動することはありません。
冬眠に向けて食いだめをする時期には、行動が活発になります。

さらに、冬眠から覚めた直後も、多くの食事を必要とするため、行動が活発になります。
なお、冬眠する時期は、地域や年によって変動しますが、おおよそ12月から翌4月の間です。

 

ツキノワグマとヒグマの危険性

ツキノワグマ、ヒグマともに危険性は「噛まれること」や「引っかかれること」です。

ただし、どちらのクマも決して獰猛で攻撃的な性格ではありません。
むしろ気性は落ち着いており、どちらかというと臆病な性格です。
ある程度離れたところで人間を見つけたクマは、攻撃してくるのではなく逃げていく場合が多いでしょう。

しかし、不意に人と鉢合わせして驚いた場合などには攻撃してくる場合があります。
一旦、攻撃状態になると、大きな力で噛みついたり、引っかいてくるため、大けがをしたり、場合によっては命を失う可能性もあります。
実際にクマによる死亡事故は毎年のように起こっています。

特にヒグマの力は非常に強く、攻撃されると命を落とす可能性が高いです。
人身被害の件数こそ生息地域が多いツキノワグマの方が多いですが、被害人数に対する死亡者人数の割合は、ヒグマの方が圧倒的に高いです。

どちらのクマも、大型の動物を襲って捕食する性質は強くありません。
しかし、攻撃能力が非常に高いため、実際に攻撃を受けると、死亡に至る可能性がとても高い危険な動物です。

あわせて読みたい
ツキノワグマの危険性について【専門家執筆】 【ツキノワグマの危険性はどのくらい?闘ったら勝てる?遭遇したときの対処法とは】 ツキノワグマは、日本における最大級の哺乳類です。 恐ろしい印象を持っている方も...
あわせて読みたい
ヒグマの危険性について【専門家執筆】 【ヒグマの危険性はどのくらい?遭遇した場合に危険から逃れるための対処法とは】 ヒグマは、日本における最大の陸生動物です。 決して好戦的な動物ではありません。 大...

 

遭遇したときの対処法

ツキノワグマであってもヒグマであっても遭遇した時の基本的な対処法は同じです。

基本的な対処法は以下の通りです。
– 距離が離れている時は、背を向けることなく後退する
– 数メートルまで近づいてきたら熊スプレーを顔面に向けて吹きかける
– それでも攻撃される時はうずくまり身を守る
– 近づいてきてもパニックにならない
– 決して走って逃げないこと、走っても追いつかれる可能性が高い

具体的な方法や考え方を紹介します。

①距離が離れている時

背を向けることなく後退します。
クマが20m以上離れているときはこのような対応をしましょう。

また、ヒグマの場合は、人間であることをあえて知らせることが有効です。
100mより近づいて来ている場合は、ゆっくり大きく腕を振り、落ち着いてヒグマに声をかけます。
そして、クマとの間に木などの障害物が入るようにしながら、静かに離れます。

どちらの場合でも、急な動きはクマを興奮させる原因となるため、落ち着いて行動することが大切です。

②ある程度近い時

20mより近づいてきた場合も、背を向けずに後退を続けます。
そして、後退しながらより近づいてきたときのために熊スプレーの用意をしておきます。
クマを驚かせたり興奮させることは非常に危険です。
決して走って逃げないようにしましょう。

人間が走ると、クマも走って追いかけてくる可能性があります。
走るスピードでは人間はクマに勝てません。
また、突進してきても、直ぐには直接的な攻撃をしてこないことが多いです。
威嚇目的でそのような行動をとっているだけなので、焦らず後退を続けましょう。

③非常に接近した時

クマが接近を続けて5m以内まで近づいてきた場合は、熊スプレーをクマの顔面に向けて噴射します。
後に残しておく必要はありません。全量を一気に噴射しましょう。
熊スプレーを持ってない場合や、効果がなかった場合には、防御姿勢を取ります。
防御姿勢とは、首の後ろに強く両手を組み、両足を抱え込むように体を丸め、首を胸の方にまげて腹部を守る姿勢です。

もし、転がされた場合でも、すぐに元の姿勢に戻るようにします。
その姿勢を維持したまま、クマが離れていくのを待ちます。
実際に攻撃を受けた場合には、大けがをしている可能性が高いです。
出血の状況によっては止血の措置をとり、急いで病院に向かいましょう。

東洋経済オンライン
キャンプ好きは要注意「山で遭う危険生物」対処法 2011~2020年の日本におけるクマによる襲撃事件は、1年間で平均89件でしたが、2020年に起こった事件は143件で負傷者が156人、死者も2人出ています。農家の高齢化などで里山...

 

遭遇を防ぐための対策

クマの危険を防ぐための効果的な対策は「遭遇を避けること」です。
そのために気を付けるべきことはツキノワグマ、ヒグマともに基本的に共通です。

以下のような対策があります。

①声や音で知らせる

人と会話をしながら歩いたり、「クマ鈴」など音が出るものを身に付けます。
「クマ鈴」は登山用品店などに売っているグッズで、バッグなどに付けておくと、歩くたびに音を鳴らすことができます。
他にも、ラジオをつけておくといった方法も効果的です。

②出会う確率が高い時間帯を避けて行動する

クマが活発に行動している時間帯ほど、出会う確率は高まります。
そのため、クマが生息する地域で山に入るときには、早朝や夕暮れ、夜間といったクマの活発に行動する時間帯を避けるようにしましょう。

③見通しが悪いところに入らない

クマと突然遭遇すると、驚いたクマから攻撃される危険があります。
クマが生息している森林で見通しの悪い場所に入るのは、必要最小限にしましょう。
どうしても入る必要がある場合は、人間がいることを知らせるため、音を立てる対策をしっかり行います。

④痕跡をみつけたらすぐに引き返す

動物の死骸の近くにはクマがいる可能性があります。
死体は見つからなくても、腐敗臭などを感じた場合でもそこに死骸があることが考えられます。
直ぐにその場から引き返しましょう。

他にも、子熊がいたら周囲に必ず親がいます。
絶対に近づかず、ゆっくりと離れましょう。
また、クマの出没情報を調べて、出没している場所には近づかないなどの対策もできます。

⑤クマが驚くことをしない・香りが強いものを身に付けない。

クマが驚くことや興味を持つことを可能な限り避けるようにします。
例えば、犬を連れて森へ入ったり、爆竹をならすなど非常に大きな音を立てることはやめましょう。
クマが驚くと、突発的な行動を引き起こす可能性があります。
また、香水や整髪料に引き付けられる習性があるようなので、極力香りが強いものを身に付けないように心がけます。

ツキノワグマ、ヒグマともに決して好戦的な動物ではありません。
人間を見つけても、クマの方から逃げていく可能性が高いです。
しかし、突然人間と遭遇し驚いた場合には、攻撃される可能性があります。
ここで説明した対策を、落ち着いて実行することで、クマに遭遇する可能性を小さくすることができます。

 

まとめ

本記事では、ツキノワグマとヒグマの生態や危険性などをまとめました。
まとめると以下のような内容を説明いたしました。

– ヒグマは北海道のみに生息している大型のクマ
– ツキノワグマは本州と四国に生息している比較的小型のクマ
– どちらも力が強く、鋭い爪と大きな歯を持つため攻撃されると非常に危険
– どちらも運動能力が高いため走って逃げることとは難しい
– 好戦的な性格ではないので、落ち着いて行動すると危険性を小さくできる

獰猛な肉食動物のイメージを持っている方も多いかもしれませんが、ツキノワグマ、ヒグマともに、主に植物を食べており、決して攻撃的な動物ではありません。
しかし、驚いたり興奮すると人間を攻撃する場合があります。
力は強く、鋭い牙や爪を持っており、実際に攻撃されると非常に危険です。
運動能力が高い上に走って逃げると本能的に追いかけてくる習性があるため、攻撃から逃れるのはかなり難しいです。
そのため、クマに遭遇しないことが、危険性を減らすための最も有効な対策です。

万が一、クマに遭遇した場合の対処法は「背を向けずに逃げること」です。
そして、一定以上近づかれた場合には、熊スプレーなどで攻撃しましょう。

 

あわせて読みたい

ヒグマの危険性について【専門家執筆】

ツキノワグマの危険性について【専門家執筆】

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

【プロフェッショナル】(生物・環境)
生物系大学院卒業後、自然環境系の建設コンサルタントに従事。
地理情報、自然環境や生物の生態等を専門とするほか、環境アセスメント図書作成の経験も有する生物環境分野の専門家。
→ この専門家に仕事を依頼する

目次